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「食料自給率40%」は大嘘!どうする農水省|食の安全|JBpress [医療・食の安全]

農業に関する常識、思い込みが、見事なまでに覆される1冊である。

多くの人はこう信じているはずだ。「日本の食料自給率は低い」「世界的食糧危機が将来やって来るから、日本は食料自給率を高めて備えなければならない」「日本の農業は弱く、保護しなければ崩壊してしまう」──。

しかし『日本は世界5位の農業大国』によれば、これらはいずれも農林水産省がでっちあげた大嘘、インチキだという。

日本は世界5位の農業大国』(浅川芳裕著、講談社、838円、税別)

筆者の浅川芳裕氏は農業専門雑誌、月刊「農業経営者」の副編集長。豊富な取材事例と膨大なデータを基にして、論理的かつ明快に、農水省がいかに国民を欺(あざむ)き、洗脳してきたかを明らかにしている。

まず、日本の食料自給率は決して低くない。農水省は「40%」という自給率を取り上げて、先進国の中で最低水準だと喧伝している。だが、これはカロリーベースの数字であって、生産高ベースで見れば66%と他の国に見劣りしない。

浅川氏によれば、実は40%というカロリーベースの数字自体も、できるだけ低く見せようとする農水省によって操作されたものだという。そもそもカロリーベースという指標を国策に使っているのは世界で日本だけらしい。

浅川氏は同様に、世界的な食糧危機は現実的にはやって来ないこと、日本の農業は世界有数の高い実力を持ち、食料の増産に成功していることなども論じており、こちらも説得力に満ちている。なにしろ日本の農業生産額は約8兆円で、世界5位。日本はれっきとした農業大国なのだ。

それにしても農水省は罪深い組織である。農水省が国民を欺いてきた理由を一言で言うと、組織と役人の自己保身のため、ということになる。「窮乏する農家、飢える国民」のイメージを演出し続けることで、省や天下り先の利益を確保し、農水省予算の維持、拡大を図っているのだ。

本書は単に知られざる事実を明るみにしただけではなく、日本の農業政策に大きな一石を投じ、実際に影響を与えることになりそうだ。浅川氏に、本書の反響や農業政策の今後を聞いた。

農林水産省が抗議をしてきたが・・・

──多くの日本人は「日本の食料自給率は極めて低い」「日本の農業は未来がなく衰退している」と信じています。その認識が改めさせられる内容ですね。

浅川氏(以下、敬称略)ある小学校の先生から、反省を込めた感想の声をもらいました。小学校の教科書には、日本の食料自給率の低さが記されています。先生は子供たちに自給率の低さを教えて、「じゃあ、どうしたらいいんだろう」って問いかける教育をしてきた。自分たちは、農水省の自給率政策に対してあまりにも無批判だった、目を開かされたというんですね。

──農家の人たちからはどんな反応がありましたか。

浅川よくぞ言ってくれたという感じです。「自給率が低い」ことが、ことさら強調されて、ずっと農業は弱い弱いと言われてきましたからね。虐げられてきたというか。

浅川 芳裕(あさかわ・よしひろ)
1974年山口県生まれ。月刊「農業経営者」副編集長。95年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。ソニーガルフ(ドバイ)勤務を経て、2000年に農業技術通信社に入社。若者向け農業誌「Agrizm」発行人、ジャガイモ専門誌「ポテカル」編集長を兼務。

でも、国際的な水準で農業をやっている人たちは、自分たちのレベルが相当高いということは認識している。海外の展示会とか海外の農家を見に行ってみれば、日本の農業が弱いなんていうのは嘘だということがすぐに分かりますよ。

──農水省からも反応があったんですか。

浅川この本を出す前に、「文藝春秋」(2009年1月号)に、この本のサマリーに当たる「食料自給率のインチキ」という小論を書いたんです。そうしたら当時の農林水産大臣の石破(茂)さんが怒って、課長クラスの人から文藝春秋の編集部に抗議がありました。

「訂正しろ」「反論の論文を掲載させろ」ということでした。20項目ぐらいの質問状が来たので全部に答えたら、「今回の話はなかったことにしてください」と抗議を引っ込めた。

──わけの分からない抗議ですね。本書を読むと、農水省は本当に自己防衛本能が強い組織なんだということが分かります。

浅川農水省は本来は農業を振興するための機関なのに、いかに自国の農業が弱いかを理論武装して、自分たちの役割を過大評価させようとしているんです。

その中で、食料自給率のプロモーションというヒット商品が生まれてきた。それは、財務省と予算折衝のやり取りをする際に、捨て台詞として絶大な効果を発揮します。「予算をよこさないと、自給率がもっと低くなる。それでもいいのか」と。すると財務省は「いや、それはちょっと」となるわけです。

ただし、農水省の役人は本気で自給率を上げようとはしません。仕事がめちゃくちゃ増えるだけですから。だからロジックとしては、「生産者と消費者がそれぞれ努力しましょう」となる。農水省が上げるとは一言も言っていないんです。

意味のないシミュレーションはするんですね。日本人が油を摂らなくなったり、消費構造が変わると、自給率がこれだけ上がりますとか。やっていることは小手先の数字合わせなんですけど。

日本の農産物はもっと輸出できるはず

──日本の食料自給率は生産額ベースだと66%になり、主要先進国の中で3位だとのことですね。浅川さん自身は66%という数字をどう見ていますか。

浅川自給率にこだわる必要はないと思いますが、もっと高めることはできるんじゃないでしょうか。今、日本は約5兆円の農産物を輸入しています。全部は無理でしょうけど、5兆円の中で奪還できるものは奪還すればいい。

輸入農産物の中で、日本で生産できるものはたくさんあるんです。今は、海外にオーダーした方が良質のものが確実に納品されるから輸入しているんですよね。

一つひとつの農産物について丁寧に対応策を考えていけば、輸入品に対抗できる。さらには、厳しすぎる国内の品質基準を国外市場の基準に合わせるなどすれば、輸出だってどんどんしていけるでしょう。すでにシンガポールの市場では、日本、中国、オーストラリアの野菜が三つどもえの戦いをしているんですよ。

世界的な食糧危機はやって来ない

──政治家やマスコミを中心に、「世界的な食糧危機が起きた時に日本は食料を輸入できなくなって、国民が飢え死にしてしまう」という論調があります。しかし、食糧危機は杞憂に過ぎないと書かれていますね。

浅川世界の食料供給量は、人口増加ペースよりも高い水準で増えています。過去40年の人口増加率は189%ですが、穀物の増産率は215%です。26%も上回っているんです。

その結果、2009年末時点で、世界の穀物在庫は消費量の約20%に当たる4億5000万トンもあります。足りないどころか、むしろ過剰な生産と在庫に苦しんでいるということです。

18世紀末にマルサスという経済学者が『人口論』という著書の中で、「人口は幾何級数的に増えるのに、食糧は等差級数的にしか増えていかない」と書きました。これが今の食糧危機論、終末論につながっています。でも、マルサスの理論は一度も証明されていないんですよ。

食糧危機を唱える人に対するごく単純な反論としては、「食料が増えなければ、人口は増えないんじゃないですか?」ということです。なぜ食料より先に人口が増えるんですか、なぜそんなに急に危機がくるんですかと。これを言うと誰も反論できない。

そもそも食糧危機の原因は農業問題じゃない。今まで農業問題だったことはほとんどありません。ほとんどが購買力の低下とか物流の遮断が原因なんですよ。例えば、戦争が起きるとか、無政府状態に陥るとか。農業の話ではない。

──中国やインドの人口増加が食糧危機を引き起こすとも言われていますが

浅川需要が増えれば、生産者は増産するんです。現在の需要に対して50年後に増産するわけじゃない。毎年、需要と価格を見て生産量を調整しているんです。

小麦だけでも2007年から2009年にかけて世界で8000万トン増産されましたから。2007年に小麦粉の値段が上がったというシグナルだけで、農家は「俺も小麦をもっと作付しようかな」と考えた。それで8000万トン増えたんです。それが経済ですよ。

また、世界中に遊休地というのがいっぱいあるわけです。既存の農地を全部使えば、200億人分ぐらいの穀物はつくれるんじゃないですか。なぜつくらないかというと、それだけの需要がないからですよ。

──だから食糧危機はやって来ないと。

浅川というより、食糧危機がやって来るという根拠が見出せない。少なくとも、世界中の人間が飢餓に苦しむという食糧危機は、まず訪れないでしょう。

農水省の本来の役割は何か

──本書で、農水省の自給率政策、過保護政策が日本の農業の発展を阻害していることを明らかにしたわけですが、政治家と官僚が変わらなければ農業政策はこのままなのではありませんか。

浅川すでに変わってきている部分はあります。今回の参院選のマニフェストで、自民党は「自給率」に関する記述をなくしました。それは、この本の影響と言っていいと思います。実際に自民党から相談も受けましたから。

舛添要一さんの新党改革も、自給率には触れていません。舛添さんもこの本のロジックを使って農政を主張していますね。一方、まだ自給率向上を掲げているのは民主党、社民党、共産党、公明党です。みんなの党も微妙に残っている。

農水省も変わりつつあります。生産額ベースの食料自給率の国別比較とか、主要品目の在庫量をちゃんと出す方向に変わっています。万が一食料がなくなった時に、何を食べられるかといえば、在庫しかありません。

農水省は「この本に影響を受けた」とは言っていません。でも、確実にある影響は与えていると思います。

基本的に、農水省は自ら解体して見直すべき存在だと認めているんです。事故米の時に、「合法と違法の区別もつきませんでした。消費者のことを何も考えていませんでした」と言って反省していますしね。

これは農水省に限らない話ですが、そもそも省の役割は何なのかという見直しが必要です。農水省は「農家保護」と「消費者保護」を行き来するんですが、本当はどちらでもない。本来の役割は、農家を守ることでも、消費者を守ることでもありません。今回の口蹄疫でも明らかになりましたが、農産物、家畜が被害を受けないように、国家的な規制と制度をつくるのが農水省の仕事のはずなんです。

さらに言うと、日本の農業の問題は要するに「米」なんです。自給率を高めると言いながら減反しているんですから、完全に論理矛盾している。だから「米の呪縛」から解き放たれないと、日本の農政は先に進みません。

農水省の中で減反政策にしがみついている人たちがいるわけです。だから、彼らを検疫とか輸出促進とかもっと別の役に立つ仕事にシフトさせてあげることも必要でしょう。そうしたことも含めて、次は農水省解体論を書いてみようと思っているところです。

(2010年7月30日)


タグ:食料自給率
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