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72万台のパチンコ機回収:今業界で何が起こっているのか [パチンコ違法化]

72万台のパチンコ機回収:今業界で何が起こっているのか

(写真:アフロ)

全国72万台の不正パチンコ機

パチンコメーカーらが集まる業界団体である日本遊技機工業組合は6月23日、既に市場に流通しているパチンコ機59万台を「検定時と性能が異なる可能性がある」として回収することを発表した。今年2月、3月に既に発表されている同様の回収リストを含めると、今年になってから問題が発覚し、回収の発表が為されたパチンコ機は総計で72万台にもおよぶ。パチンコ業界においてこれほどの大規模な機械回収が発生したのは1996年以来20年ぶりのことであり、各パチンコメーカーらは対象となったパチンコ機の撤去を年内にも完了させるとしている。

今回、パチンコ機の大規模回収の発端となったのは、昨年発生した「不正パチンコ機問題」である。パチンコ機は国の指定する試験機関において法の求める基準に則って製造されているかのどうかの試験を受け、その後、各都道府県の公安委員会による検定を経てパチンコ店に設置される。当然ながらこれらパチンコ機は試験時の性能を維持したまま客に提供される必要があるわけだが、昨年、抜き打ちで行われた全国161店舗258台のパチンコ機を対象としたサンプル調査において、「法の求める基準で運用されているパチンコ機が一台もない」ことが判明し、大きな問題となった。

この問題に対し、当初警察は各パチンコ店が日々の営業の中でパチンコ機の性能を意図的に変更し、ギャンブル性を高めた形で運用しているものとしてパチンコ店への締め付けを厳しく行った。しかし、半年に亘って再三警察が厳しく指導を続けたにも関わらず状況が全く改善しない為、詳細調査を行った所、実は多くのパチンコ機が各店舗に納品される前にギャンブル性が高められた状態になっている事が判明。即ち、機器を製造販売するメーカーによって不正な性能の変更が行われている可能性が明るみになった。

結果、先述のとおり総計72万台のパチンコ機が「検定時と性能が異なる可能性がある」としてメーカーによって回収されることが決定したわけだが、この台数は現在世の中のパチンコ店に設置されている約300万台のパチンコ機のうちおよそ25%にあたる膨大な台数となる。

「検定時と性能が異なる可能性のあるパチンコ機」の怪

しかし、ここで気になるのは「検定時と性能が異なる可能性がある」とする表現である。もしこれらが明確に「検定時と性能が異なるパチンコ機」であるのならば、それらは即時回収を行うべきものであるし、パチンコ業界を規制する風営法の関連規則の中には、法の求める技術上の規格に適合していないことが判明したパチンコ機の検定の取り消しに関する条項が存在する。また、同様に風営法関連規則の中には、自身が製造するパチンコ機の性能の同一性を保持することができないと認められるメーカーに対して「遊技機を製造する能力がない者」として確認を取り消すことができる条項もある。

しかし今回、日本遊技機工業組合から示された回収リストは、あくまで検定時と性能が異なる「可能性」のあるパチンコ機を示したものであり、その性能が確実に異なるものとはされていない。そして、それらがあくまで「可能性」である限りにおいて警察もパチンコ機の検定取消しや、それを製造したメーカーに対する確認取消しにまでは踏み込まないのである。

今回発生した回収は、メーカーが独自に行った調査の中で検定時と性能が異なる可能性があることが判明した結果、「自主的に」行われるものであり、彼らがそのように言っている限りにおいて警察としてはその回収が速やかに実施されるよう適切に監視をしてゆくのだ。

非常に判り難く一般的には理解に苦しむ説明であるが、これが現在、警察が対外的に示している一連の不正パチンコ機問題に対するスタンスである。

72万台回収の先にあるもの

しかし、自主回収とはいえ現在全国に約300万台存在するパチンコ機のうち、およそ25%にあたる72万台を半年足らずで撤去することの影響は図りし得ない。中でも、最も懸念されるのが撤去されるパチンコ機の後に据えることとなる入替機供給と、その入れ替えに伴うパチンコ店側の財務能力の問題である。

これから半年間で完遂される機器回収に伴う72万台分の入替機を、果たして現在のメーカーが持つ開発&生産力で賄うことが可能なのか。もし、入替機の供給そのものが間に合わなけば、各パチンコ店は回収対象となるパチンコ機を撤去した後、店舗の一部をベニヤ板等で封鎖して営業を行わなければならなくなる。このような営業方式は、業界内で俗称で「ベニヤ営業」などとも呼ばれるものであるが、「見た目」的に非常にみっともないのは勿論であるが、事業の源泉であるパチンコ機そのものがなければ店舗は売上を維持できない。

一方、入替機の供給以前に、それらを購買するパチンコ店側の財務能力上の問題もある。今回のパチンコ機の回収にあたってメーカー側は、各パチンコ店側に対して一定の補償を行うことは発表しているが、未だその補償内容の詳細は示されていない。ただ、そこに何かしらの補償があることが確実だとしても、撤去後に必要となる入替機代の全額をメーカーが補償してくれるわけもなく、パチンコ店にとっては想定外の負担が発生することは否めない。これは特に財務基盤の弱いパチンコ店にとっては死活問題となる。

実は、全国のパチンコ店舗数はピークとなる1995年の約1万8千店から現在の現在の約1万店へと長らく減少傾向が続いているが、今回のパチンコ機の大回収を受け、これからその数は更に加速度的に減少してゆくであろうと言われている。業界専門家の中には現在の全国1万店から、最悪のケースでは更に5千店程度まで落ち込むのではないかと予想している者もおり、各パチンコ店は文字通り「存亡の危機」に直面している状況だ。

予測に難くない「客離れ」

また、一連のパチンコ機の大規模回収は顧客となるプレイヤー側の消費にも間違いなく影響を与える事となるだろう。実は、今回の大規模回収の発端となったパチンコ機の不正な性能変更は、その殆ど全ての事案がゲーム上の小さな入賞を極力減らし、逆に『大当たり』に出玉を集中させる事によって「ギャンブル性を高める」方向で行われたものであった。その結果、 パチンコプレイヤーにおける1人当たりの平均投入金額は1989年が月額平均5万円程度であったのに対し、現在は月間20万円程度にまで跳ね上がっている(出所:レジャー白書)。これは、1989年からの物価上昇分を念頭に置いたとしても、異常な上昇率であるとしか言いようがない。(※但し、これはあくまで「投入金額」であって「負け額」ではない)

逆に言えば、このようなパチンコのギャンブル性の上昇に「ついていけない」ようなライトなプレイヤー層を、二十数年にも亘って「切り捨て」ながら発展してきたのが現在のパチンコ業界であるわけで、今、市場に残っているプレイヤー達がこれから新しく法の規定に基づいて「正しく」運用されるギャンブル性の抑えられたパチンコ機に果たして魅力を感じるだろうか?業界が最も恐れているのは、このような既存プレイヤー達の「パチンコ離れ」なのである。

パチンコ業界の「原点回帰」路線

ただ、例え既存のプレイヤー達が高いギャンブル性をパチンコに求めているとしても、それらは全て法の基準に則っていない不正な性能であるわけで、現在のように厳しい社会批判を受け警察が本腰を入れてそこに指導を行っている現状において、業界がこれまでのような高いギャンブル性を維持したままの営業を行う術はない。業界としては今までのような不正な営業の在り方を改め、法の求める基準を順守しながら「これまでとは違う新しいパチンコ」の楽しみ方を普及させてゆくしかない。すでにそのような取り組みは現在パチンコ業界の取り組む「ちょいパチ」と呼ばれるキャンペーンとして始まっている。

ちょいパチとは「ちょいと遊べるパチンコ」の略語で、少しの予算で多く遊べるとされているパチンコ機の新ジャンルのこと。3000円で1時間あれば一通りの「大当たり」体験も含めてパチンコを楽しめるというのが「売り」であり、各メーカーが足並みを揃えてこの新規格でのパチンコ機の開発を進めている。要は、かつてのギャンブル性の低かった「牧歌的な」パチンコへの回帰を目指す方向性であるワケで、業界の中ではしばしば「原点回帰」というキーワードと合わせて、この新しい施策が語られ始めている。

暗中模索の時代の始まり

但し、筆者としては個人的にこのような現在の業界による「原点回帰」路線のみでは、パチンコ業界の復活は難しいであろうと考えている。パチンコ機のギャンブル性が今ほど高くなかった時代、確かにパチンコが「庶民の娯楽」などと呼ばれた栄光の時代は存在した。しかし、それら「かつてのパチンコ」が消費者から支持されたのは、未だ世の中に「遊び」の選択肢が少なかった時代においてのこと。今や、既に「庶民の娯楽」はパチンコからスマホゲームへと完全に取って代わられており、また一部のスマホゲームにおいてはゲーム内で疑似的なギャンブル性を演出し、それに「ハマる」プレイヤーが続出するなど社会問題化するまでに至っている。即ち、今の消費者にはパチンコに代わる様々な「選択肢」が既に提供されているワケで、そのような環境の中でただ原点回帰しただけの「かつてのパチンコ」が再び大きな支持を獲得できるとは到底思えないのである。

即ち、今のパチンコ業界の「原点回帰」路線は、不正なパチンコ機を世の中に大量に流通させてしまった今回の問題に対する応急的な措置として機能するだけのものであって、業界の未来を示す指針にはなりえないのではないか。パチンコ業界はおそらく「原点回帰」を超えた次なる未来志向の指針を見つけるまで、暗中模索の時代に突入するのではないか。私自身はそのように一連のパチンコ業界の動向を捉えているところである。

ということで、パチンコ業界の皆様におかれましては不正な性能を持つ可能性のあるパチンコ機の一日でも早い回収に努めて頂きたい。そして、今回引き起こしてしまった問題を真摯に反省し、社会的制裁を「正しく」受け、また必要とあらば法的な制裁も受けつつ、次なる業界の健全化なる繁栄にむけて最大限の努力を行って頂きたいと願うところであります。

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。


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