2016年9月、ステルス戦闘機F-35Aが航空自衛隊に引き渡されます。「専守防衛の自衛隊にステルス機は不要」という声もあるようですが、実際のところ、どうなのでしょうか。空自のF-35A導入、どこにメリットがあるのでしょうか。

「F-35A不要論」に理はあるのか?

 2016年9月24日(土)、航空自衛隊の次期主力戦闘機であるF-35A「ライトニングII」初号機の引き渡し式典が、いよいよとり行われます。

 F-35Aは、レーダーなどのセンサーに探知されにくい優れた「ステルス性」をひとつの特徴とする戦闘機ですが、一部からは「ステルスは敵国に侵攻するための能力であり、専守防衛を旨とする航空自衛隊にF-35Aは不要」という声が聞こえます。はたしてF-35Aは航空自衛隊にとって、本当に不要なものといえるのでしょうか。


航空自衛隊のF-35A初号機。ステルス性の観点から塗料が制限され、日の丸がグレーのロービジ(低視認性)迷彩仕様になっている(写真出典:ロッキード・マーティン)。

 航空自衛隊の主要な任務のひとつである「対領空侵犯措置」は、防空識別圏をこえて日本の領空に迫る不明機を監視、かつ注意・警告を与えるために戦闘機を緊急発進(スクランブル)させ、相互に目視可能な距離にまで不明機へ接近します。

 F-35は、現行の戦闘機F-15「イーグル」に比べ、加速力も上昇力も旋回性能も劣り、飛行性能に優れた機体とはあまりいえません。そのうえ目視可能な距離にまで接近するような場合は、自慢のステルスも役に立ちません。したがって対領空侵犯措置に限れば、確かにF-15のほうが適しているといえるかもしれません。

わずか30秒で「全滅」

 しかし、それはあくまでも「平時の理論」です。

 万が一、日本が本格的な侵略を受け戦争状態に入った場合、航空自衛隊の戦闘機は不明機の監視を任務とする「対領空侵犯措置」ではなく、武力の行使も任務とする「防衛出動」として発進します。

 状況にもよりますが防衛出動においては、対領空侵犯措置のような接近しての注意・警告は行われず、戦闘機が全能力をフルに発揮するような、射程の長い空対空ミサイルを用いた目視距離外における空中戦となるはずです。

 現代の空中戦は「先手必勝」であり、先に空対空ミサイルを発射したほうが勝利します。そして、こうした戦い方はF-35Aが最も得意とする土俵です。航空自衛隊がF-35Aのようなステルス機を持っているというだけで、相手は常に「どこから撃たれるか分からない」という見えない恐怖にさらされることになるでしょう。

 さらにF-35Aはステルス性だけではなく、高度なセンサーと情報処理能力、ネットワークによる情報共有システムを持ち、相手を発見する能力においても現行のF-15やF-2戦闘機とは比較にならないほど優秀です。


手前がF-16、奥がF-35。F-16は1974年、F-35は2006年に初飛行した(写真出典:アメリカ空軍)。

 2016年8月に実施されたアメリカ空軍「ノーザン・ライトニング」演習において、F-35Aは1回の作戦でF-16戦闘機の27撃墜を記録、対抗部隊は一度もF-35Aを発見することができませんでした。

 同演習でF-16パイロットとしてF-35Aと戦った、アメリカ空軍第176戦闘飛行隊隊長バート・ヴァンルー中佐は「我々が演習空域に入ってから、わずか30秒で全滅した」と語り、F-35と戦うことの難しさを以下のように述べています。

「F-35Aを相手にする戦いは、従来戦闘機のそれとはまったく異なります。最も困難なことは、彼らが我々を発見できるのに、我々はF-35Aを発見することができないということです。それは巨大な空間で目隠しをして、誰かを探し出すようなものです」(ヴァンルー中佐)

F-35Aに継承された「イジメ」の伝統

 アメリカ空軍は「ノーザン・ライトニング」演習の内容について、「F-22による旧世代機イジメの伝統が、F-35Aに継承された」と報じました。「F-22による旧世代機イジメ」とは、これまで唯一のステルス戦闘機であったF-22が、演習においてほぼ無敵ともいえる状態であったことを表現したものです。


「世界最強」ともいわれるアメリカ軍のステルス戦闘機F-22「ラプター」(写真出典:アメリカ空軍)。

 F-35Aは、2016年8月にアメリカ空軍へ実戦配備されたばかりの新鋭機ですが、前述のとおり飛行性能自体はあまり優秀とはいえません。そのため、これまで「空中戦に弱い」というイメージで語られることが少なくありませんでした。しかし「ノーザン・ライトニング」演習などにおいて“世界最強”とされるF-22に比肩しうる空中戦能力を持つことが、徐々に明らかになりつつあります。

 そのように、空中戦において圧倒的に強いF-35Aが航空自衛隊に配備される意義は、「抑止力」という意味のうえでも大きいといえるでしょう。

【写真】「心神」とも呼ばれた日本が開発中のステルス機X-2


ステルス性能など、次世代戦闘機に必要とみられる各種技術を研究するため開発された先進技術実証機X-2。2016年に初飛行(写真出典:防衛装備庁)。