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日本の失われた数十年は作り話か? 経済危機直面の欧米で議論 2012年1月18日(水)14:00 「ニュースな英語」 [日本再生]

日本の失われた数十年は作り話か? 経済危機直面の欧米で議論

2012年1月18日(水)14:00 「ニュースな英語」

英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今年もよろしくお願いします。2012年1本目の話題は、英米の日本通たちによる「『日本衰退論は作り話』は作り話か? 日本は反面教師ではないのか?」という議論についてです。日本は本当に言われているほどひどく衰退しているのか、本当に日本はひどく息苦しく住みにくい国なのか、という議論です。「日本」と一口に言っても色々な環境や状況があるので、たとえ日本に住む日本人だろうと、単純な結論が出せる話ではないと思いますが。(gooニュース 加藤祐子)

○ 神話というか作り事か

年末年始にかけて3週にわたりお休みをいただきました。その間、英語メディアで話題になっていたJAPANというと、オリンパスのウッドフォード元社長が委任状争奪戦を諦めたこととか、野田内閣改造とかでした。もっともこのところの英語ニュースでのもっぱらの話題といえば、アメリカの大統領選や欧州の経済危機、シリア、イラン、北朝鮮などで、日本が大きな話題になっていたとは言えません。ここで取り上げる「日本衰退は神話か」の議論は、欧米の経済危機報道から派生したものです。「ところでもう何十年も停滞しているといわれる日本はどうか?」と比較検討の対象を日本に求めているわけです。ここ数年、
何かというと「日本みたいになるな」と反面教師の材料として日本を取り上げてきたのが、欧米経済の本格的後退はいよいよ必至という今になって「ところで日本はどうなのよ」と(一部の人が)考え直すようになった様子です。

そこに、かねてから「日本衰退論は作り話だ」と主張していた日本通の経済ジャーナリストが1月8日付の米紙『ニューヨーク・タイムズ』に
「The Myth of Japan’s Failure(日本の失敗という作り話)」という題で寄稿。それに対して「その通り」という賛成と、「いや、作り話だという言い分自体が作り話だ」という反論が(一部で)盛り上がったという次第です。

(ちなみに、「myth」を「神話」と単純に訳すと「神様の話」ぽいニュアンスになってしまうかと思い、「作り話」と訳しました。こういう場合に使われる「myth」とは、「本当だと思われているが実は本当ではないこと」くらいの意味で、神様は関係ありません。「安全神話」などの形で使われる「神話」と同じなので、そういうニュアンスが伝わるなら「日本失敗という神話」でもいいのでしょうが)

寄稿したのは、エイモン・フィングルトン氏。英紙『フィナンシャル・タイムズ』や米誌『フォーブス』の元編集者で、日本に詳しいアイルランド出身の経済記者です。

いわく、経済停滞が進行中のアメリカでアメリカ人は「進むべき道を間違うと日本みたいになってしまうと繰り返し警告されている」、「たとえばCNNのアナリストは日本が『失意の国で後退している国だ』と話していた」と。しかしそれは違う、日本を経済停滞の反面教師として取り上げるのは「作り話 (myth) だ」というのが、フィングルトン氏の主張です。

「色々な指標で計れば、1990年1月の株価暴落で始まったいわゆる失われた数十年といわれる期間に日本経済はとても好調だった。重要な指標を見るなら、日本はアメリカよりずっと好成績を残している。株価急落にもかかわらず日本は国民の生活レベルを向上させてきた。いずれ時間がたてば、この時代は大成功した時代だったと評される可能性は大きい」と。

そしてフィングルトン氏は欧米メディアの経済記事が日本を笑い者にするのは間違っているとして、いくつかの指標を挙げます。たとえば1989年から2009年にかけて日本の平均寿命が4.2年伸びたこと。これは医療が優れているからだと。そして日本はインターネットのインフラを見事に向上させたと。90年代には整備が遅れていると馬鹿にされていたが、最近では世界最速のインターネット網を備えた世界トップ50都市の内38都市が日本だという調査結果もあると。加えて1989年に比べて日本円は対ドルで87%、対ポンドで94%も価値を挙げているし、失業率4.2%はアメリカの約半分だし、1989年以降のアメリカが経常赤字を4倍以上に増やしているのに対して同時期の日本の経常黒字は3倍に増えていると。

フィングルトン氏はさらに、複数の日本ウオッチャーによる指摘を例示し、「アメリカ人が日本に降り立った瞬間、『失われた数十年』など作り事だったと気づく」、「日本の空港はここ数年で拡張され、最新鋭のものに改良されているからだ」と。加えて「日本人はアメリカ人より身なりがきちんとしているし、ポルシェやアウディやベンツなど高級車の最新型に乗っている。日本ほどペットが甘やかされている国は見たことがないし、国のインフラは常に改良され進化し続けている」と。

ピカピカの外国車やブランドものの服を着たワンコをやたら見かけるのは、たとえば東京でも一部の地域限定なのですが……と、私はここで思いました。またフィングルトン氏の書く「日本政治の失策の結果とされている日本の人口減は、かつて食糧不足に苦しんできた日本人の、国民的選択によるものだ」という部分にも、つい首をかしげました。その一方で、欧米で時に言われるほど日本はひどい状態だろうかと首をかしげてきた私は、「日本は決してダメではない」という同氏の主張に、そうだよなあと何度かうなずいたわけです。

「日本は衰退などしていない」というのはフィングルトン氏のかねてからの持論で、たとえば
2005年4月にも「日は昇り続けている」と題して、「史上最大の経常黒字を発表したアジアの国は日本だ。アメリカ経済にとって最も大事なアジアの国は、依然として中国ではなく日本だ。個人所得のレベルで比べても、アメリカが指標とするべきは中国ではなく日本だ」と書いていました。それから7年たって、中国の存在感はますます高まっているわけですが、それでもフィングルトン氏は「日本は衰退などしていない」と主張を重ねているわけです。


○ しかし日本は息苦しい?

同じ『ニューヨーク・タイムズ』ではノーベル経済学賞受賞者でプリンストン大学教授で名物コラムニストの
ポール・クルーグマン氏がフィングルトン氏の主張に対し、「日本が衰退しているというありがちな指摘は大げさすぎる、というのはその通りだ」とした上で、「日本の経済成長が停滞している最大の原因は人口減だ」と。そして労働者ひとりあたりのGDPで日米を比較すると、1990-2000年にかけては本当に日本の労働者の生産性はアメリカに比べて下落していたが、2000年以降は持ち直しているのだと指摘します(もっとも日本の労働者の生産性がアメリカのそれに常に満たないというのが、私には驚きでしたが)。

日本経済はひたすら悪化し続けているという一般イメージは間違っているし、日本は確かに1990-2000年に経済停滞を経験したが、その最中にあっても「アメリカがいま経験しているほどのすさまじい苦しみ、人的被害(human disaster)を日本は免れた」ともクルーグマン教授は言います。

「(経済危機に直面するアメリカは)日本と同じくらいひどい対応をする羽目になるのかと質問されるたびに、最早それどころではないと僕は答えている。アメリカは実を言えば、日本が経験していないほどひどい状態にある」とクルーグマン教授は結んでいます。

そして
英BBCニュースも「日本は本当に停滞しているのか?」という特派員リポートと併せて、トーク番組でフィングルトン氏の主張を取り上げていました。深刻な経済危機を目の前に「日本のようになってはならない」というのが通説だが、フィングルトン氏は真逆のことを言っていると。

まずローランド・バーク東京特派員は、「日本は20年も停滞していたようには見えない。往来は活気に溢れ、女性の半数はルイ・ヴィトンやその他のブランドものバッグをもっている。ミシュランの星がついたレストランの数はパリより多い」とリポート(ミシュラン云々のくだりで映ってるお店がドトールだというのが苦笑ものですが)。「(経済危機に直面する)欧米は日本のようになるのを恐れるのではなく、日本のようになろうとお手本にすべきなのでしょうか」と問題提起し、そして輸出用精密機械の基盤を作る日本企業を紹介しています。この会社は円高による苦境を乗り切るのに、従業員を削減するのではなく、なんと全員の給与を下げたのだと。「なぜそんなことができるのですか」と尋ねるバーク記者に、日本人マネージャーが「だって、クビにするべき人はひとりもいませんから」と答える姿が映し出されます。

そしてこれについて
番組では、『フィナンシャル・タイムズ』のアメリカ編集長で元東京支局長のジリアン・テット氏(サブプライム危機を予測した記者として有名)が、日本のGDPや経済成長も確かに再評価されるべきだと認めた上で、何より特に注目すべきはこうやって従業員をクビにするよりは全員で給与カットを受け入れようという日本社会の発想だと指摘。この事例からも明らかなように、日本社会において特に大事なのは「social cohesion」、社会の一体性、団結力なのだと話していました。注目すべきは「日本社会の、みんなで痛みを共有できる力、みんなでがんばれる力です」と。

「経営が厳しい時に従業員の給与をカットして辛い時期を乗り切ることができるというのは、経済に柔軟性を与え、社会に団結力を与えます」とも。加えて、日本の巨額な公的債務も問題視されているが、これも欧米とは事情が違うと。なぜなら日本の国債の大半を保有するのは外国人投資家ではなく日本人なので。ゆえに日本の財政健全化のために日本人投資家がヘアカット(債務元本の削減)を受け入れるのはあり得る話で、それが海外投資家に債務の半分を所有されている欧米の財務危機とは事情が違うと。

ただし、とテット記者は付け足します。一致団結を重視する日本社会の負の側面、つまり「conform(順応・同化)」しなければならない社会だという面を、アメリカ人やイギリス人が好んで受け入れるとは思えないと。

「合意をベースにした社会システムはある意味で、順応を強制させられる息の詰まる社会なので、ほとんどのアメリカ人やイギリス人にとって、受け入れるのは大変だと思う。結婚したり子供が生まれたら多くの女性が仕事を辞める、それが現代日本の現実なので」とも。つまりみんなで痛みを分かち合うことのできる社会とは裏を返せば、「みんな」に同化できなければ息苦しい社会だと。そういう「trade off(交換、相殺)」があるのだと。

「みんな」にどれだけ助けてもらえるか、それは確かに「みんな」にどれだけ同化ないしは参加しているかによる。それは日本の大きな特徴だと思います。ただアメリカにもそれなりに、ましてやイギリスにはかなり、自分が属する集団・組織や社会グループ内での同調圧力はあって、それに同調しておけばいざという時に助けてもらえる仕組みは両国にもあると思います。同調圧力に逆らうことで失うものは、アメリカにだってイギリスにだってあるでしょう。ただし同調圧力が日本と比べて強いか弱いかの違いはあるだろうし、「いざとなっても誰にも助けてもらえない」絶望感がより強い人たちの間で、激しいデモや暴動が発生するのだろうかとも思います。


○ 経済成長率より大切なことが

そして『ワシントン・ポスト』系の
オピニオンサイト『Slate』では政治経済ライターのマシュー・イグレシアス氏も、日米の人口構成の違いを勘案すれば日本経済の状態は言われているほどひどくないし、経済成長率以外にも大切なことは人生にたくさんあると指摘。「日本は暮らすのにいいところだし、日本の人たちはとても健康で、顧客サービスのレベルは高いし、凶悪犯罪は比較的少ないし、激しい社会不安も比較的少ない」と。それでも就業率や若者の失業率の推移など統計を見れば日本経済の状態が1990年以降悪化を続けたのは一目瞭然で、「円高が続くから日本経済は堅調だ」「失われた10年など作り事だ」というフィングルトン氏の主張は、それは違うのではないかとイグレシアス氏は反論しています。

個人的には、このイグレシアス氏の意見が妥当な気がします。日本は確かに停滞したが、社会の状況は外国と比べてどうだろうと。「比較的 (relatively)」というのがキーワードで、上で書いたように
私が「そんなに日本はひどいか?」と考えていたのも、日本以外と比較してのことです。

それでも、いやいや、日本は本当にひどいことになっているのだ、フィングルトン氏は全く間違っているという反論もありました。『ニューヨーク・タイムズ』には、かつて『ナイト・リダー』系列各紙の東京特派員だった
マイケル・ジーレンジガー氏が投書し、「日本は縮小しつつあり、ますます内向きになっている。(世界における)重要性を失いつつある国だ」とフィングルトン氏に反論。企業への忠誠に縛られて夫たちは家庭にいる暇がない。そんな社会で女性たちは子供を産もうとしないし、政治は信用を失い、公的債務はGDPの2倍以上。オリンパス問題は日本企業がいかに身内意識に汚染されているかの証拠だったし、日本がいかに危機に対応できないかは原発事故で改めてあらわになったと、これぞ通説とも言える日本衰退論をたたみかけています。「アメリカが力を失っているからといって、日本が力を増したわけではない」「日本社会は個人を応援しない。そんな日本を脱出して個人を支えてくれる社会を求めて、(アメリカの)ブルックリンやサンフランシスコに移住してきた何千人もの日本の若者に聞いてみるといい」とも。

日本を生きづらく感じて海外に脱出したいという思い、それは私にもありましたから、よく分かります。一方で欧米を生きづらく感じて日本にやってくる人もいるわけで(比較すれば少数でしょうが)、必ずしも「日本を脱出する若者がいる=日本はダメ」にはならないのでは? 私はついついこういう話になると、「それは個人個人の感じ方の違いではないですか?」と思ってしまい、十把一絡げな総論を嫌うクセがあるので、「その個人の感じ方の違いが日本では尊重されないんだ、だからダメなんだ」と思う人とは、話がぐるぐるしそうな気もします。

さて、日本は本当に衰退しているのか。日本は本当に生きづらい国なのか。どう思いますか?


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