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ノーベル賞経済学者・クルーグマン「中国崩壊と世界同時不況 私はこう見ている」 [中国]



チャイナ・ショック! 世界経済の「明日」を読む【第1部】

世界第2位の経済大国・中国で、株価が暴落した。その巨大なくしゃみによって、日米欧で同時に株安が進行。「世界不況」への門が、不気味な音を立てて開き始めた。混迷の時代がまた始まるのか。

失速と崩壊はまだこれから

「チャイナ・ショック」以外の何物でもない株の急落だった。昨年末から上昇し始めた上海株式市場の総合指数は、6月、5000ポイントの大台に乗せていたが、8月末、一気に下落。25日には、節目の3000を一時割り込み、ピークから4割超下げた。中国バブルは完全に弾け、崩壊した。

日本でも、8月半ばには2万1000円近くまで値を上げていた日経平均が、8月25日、半年ぶりに、1万8000円を割り込んだ。大損を出す投資家が続出。市場は阿鼻叫喚の地獄と化した。

各国で懸念が増し、「世界同時不況」が現実味を帯びるなか、20人の経済のプロたちに徹底取材。世界と日本の経済の今後を読み解いた(全7部)。

巻頭提言をするのは、'08年にノーベル経済学賞を受賞した、プリンストン大教授のポール・クルーグマン氏だ。安倍晋三総理にも影響を与える同氏に、不透明な世界経済の今後を聞いた。


【独占インタビュー】ポール・クルーグマン

いま、中国はバブル崩壊の真っただ中にあります。それを否定する人は、アメリカの経済界を見渡しても、誰ひとりいません。

情勢は、'90年代の日本のバブル崩壊と近い。しかも中国は、これから、さらなる失速を経験することになる。中国には、この国特有の問題がいくつもあるからです。

中国について話す前に、まずは世界経済全体の現状について俯瞰してみましょう。いま世界で起きているのは、シンプルに言えば、金融緩和で各国が発行した過剰なマネーが、行き場を失っているということです。

世界全体の経済が失速するなか、これまで有力な投資先と目されていた、中国をはじめとする新興国の成長が懸念され、一気に資金が引き上げられつつあります。

こうしたリスクを避けようと、マネーが安全資産に逃げてしまっている。その結果、株安が起きたのです。

不安定な状況の中心にいるのが、中国です。

中国は'08年のリーマンショック後、ただでさえ多かった投資を、政府主導でテコ入れし、無理矢理に増やしました。それまでは投資がGDPの40%強を占め、これでも異常な水準でしたが、そこからさらに50%近くまで持ち上げたのです。

その結果、投資が異様なまでに過熱してしまった。一方で消費はわずか30%ほどに過ぎません。アメリカでは逆に消費の割合が70%を超えている。

こうした投資による旺盛な成長を見込んで、各国のマネーが流れ込んでいたのですが、無理矢理の投資が長続きするはずがありません。成長が鈍化するなかで、それが一気に逆流している。

同時に、国内の投資家は投資を回収できず、不良債権問題が深刻化している。不良債権は今年の6月末で約2899億2000万ドル(約348・6兆円)あるとされ、前年から3割超も増えている。まさにバブル崩壊の様相です。

中国は信用できない

中国の焦りが見えたのが、人民元の切り下げでした。8月11日に基準値を2%、翌日に1・6%切り下げた。

輸出競争力を強化したりすることで、経済を刺激したいという意図の現れです。これが「最初のひと噛み」となって、これからさらに切り下げが行われていくと思う。でも日本は'12年から約50%も円安が進んでいます。それを考えればこの程度の切り下げをしても効果は薄いでしょう。

本来ならば、本当に中国が実現すべきなのは、完全変動相場制への移行です。しかし、その場合、元はドルに対して、いまより大幅安になり、アメリカとの経済摩擦は増します。中国の指導者に、その準備があるとは思えません。

中国経済でさらに問題なのは、その影響の大きさがどれほどかを正確に測れないということ。

まず、中国の共産党が発表する数字が、信じられない。今年、アジア金融フォーラムに参加した際、中国の政府の代表は、「成長率は、7・3%」と言っていましたが、その数字がどうやって出てきたのか説明はなかった。一部では、実態は3~4%だと言われています。

また、中国で不動産投資をする場合の借り入れは、「影の銀行システム」で行われることが多い。

これは、通常の銀行ではなく、投資銀行、証券会社やヘッジファンド、「理財商品」という金融商品を売る運用会社などの総称のことで、この実態は把握されていない。

「影の銀行」の貸出残高は、'13年末の時点で、約48・7兆ドル(587兆円)に達しているとされます。これが、不良債権の影響で、連鎖的に破綻する危機にあると言われる。世界経済に与える影響は計り知れません。

他国に目を転じても、様々な懸念材料がある。

アメリカは、景気は悪くないですが、重大な判断を迫られています。FRB(米連邦準備制度理事会)が、利上げをするか否かの決断です。

ヘタをすれば、「1937年の悪夢」が再来する。

1929年の世界恐慌で株価が暴落し、大打撃を受けたアメリカは、金融緩和政策やニューディール政策で回復を図った。'33年から'36年の間に、GNPが560億ドルから820億ドルにまで回復したところで、'37年、FRBは、インフレを懸念して、利上げをしたのです。しかし、これが間違いでした。景気は冷え込んで'37年の1年間で失業率は20%にも達し、工業生産は32%、GNPは10%も落ち込みました。

今年7月、ジャネット・イエレンFRB議長は、米下院議会で、「利上げを早めにしたほうがいい」と発言し、9月の利上げがささやかれましたが、まだ状況は不安定。'37年の再来を防ぐため、利上げはしないと思います。

私は、働く意欲を持つ人がすべて雇用される「完全雇用」が明白に実現し、間違いなくインフレになったと言えるまでは、利上げは待つべきだと思う。現状、インフレ率はまだかなり低い。

欧州では、8月19日、ESM(欧州安定メカニズム)が、ギリシャへの最大860億ユーロ(約11兆8000億円)の金融支援を承認し、ギリシャはデフォルトを避けることができました。最悪のシナリオは回避できた。

しかし、9月20日にギリシャの選挙がある。そこで、政権が代わるなど、政治的な混乱が起きれば、それが経済に波及していく可能性が高い。まだまだ安心はできません。

グローバル経済が減速しているなかで、日本が絶対に行ってはならないのは、消費税増税です。1度目は完全に失敗でした。2度目の増税をすれば、アベノミクスは完全に墜落してしまう。世界経済が衰退するなか、日本には力強く頑張ってもらわなくてはなりません。

チャイナ・ショック! 世界経済の「明日」を読む (2)

アメリカの機関投資家たちは、すでに日本株を見放している!?日本株はこのまま持っていても大丈夫なのか?三人の経済のプロが緊急討論

1週間で1年分の値動き幅に

豊島逸夫それにしても、8月24日、25日の下げはものすごかった。世界中の金融マンは固唾を飲んで株価ボードを見守っていたに違いありません。

今回の大暴落の主な原因はいうまでもなく、アメリカの利上げに対する警戒感が高まっていたところに、中国株のショックが重なったことです。

いまウォール街の最前線では過去に利上げを経験したことのない若い世代が働いています。彼らは、わずか0・25%とはいえ、金利が上がるということに対して未知なるものへの恐怖心を抱いている。この恐怖が市場心理を悪化させたんです。

としま・いつお/三菱銀行・スイス銀行を経て独立、豊島逸夫事務所代表。国際金融、マクロ経済動向、金相場などに詳しい

中原圭介強烈なダブルパンチでしたね。これだけグローバル経済が進んでいると、日本株も世界的な株安とは無縁でいられませんので、当然、暴落した。6日連続の下落で、2万1000円近くをつけていた日経平均は、約2800円も落ちて、1万8000円を割りました。日経225先物は2万700円から1万7100円くらいまで落としていて、振れ幅は3600円。これは通常の1年分の値動き幅です。それがわずか1週間で起こったのですから、驚愕しました。

なかはら・けいすけ/アセットベストパートナーズ所属。エコノミスト、ファイナンシャルプランナーとして多数の著書を執筆

石黒英之25日には中国が追加緩和を発表し、火消しに走りました。中国政府は自国の経済成長が鈍化していくことをよくわかっている。それをいかにソフトランディングさせるのかが課題で、あまりに急激な景気悪化を招くと、政権転覆のリスクがあります。だから、金融緩和から財政出動まであらゆる手段を使って、景気悪化を食い止めようとするでしょう。

いしぐろ・ひでゆき/岡三証券・日本株式戦略グループ長・シニアストラテジスト。'04年入社以来、日本株情報・戦略に携わる

豊島しかし、中国政府はマーケットを見くびっていた面もある。7月に株が下がったときには、官製マネーで支えようとしたのですが、そんな力業をずっと続けられるはずがありません。

そもそも中国株は市場参加者のほとんどが個人投資家で、しかも初心者です。政策よりもビギナー心理で相場が動く。

たとえ政府が大手株主に売りを禁じるような施策を講じたとしても、それを上回る勢いで個人投資家が恐怖に襲われて、群集心理で一気に逃げ出すようなことになる。習近平も相場だけは権力で抑え込むことができなかったということです。

中原今回の株価をさらに押し下げた原因に、天津の大爆発があります。天津港は世界4位の貿易港で、これにより、中国の輸出が滞ってしまいます。ここから家具や衣料、日用品など多くの商品が日本に輸出されていましたが、今回の事故で当然輸出は減るでしょう。

現在、中国政府は7%成長と発表していますが、実際の数字はそんなによくありません。おそらく今は5%以下の成長率でしょう。「7%成長をしていれば、格差は拡大しない」と政府が言い続けてきたので、表向きはそう発表しないと国民の不満が高まるのです。

石黒アメリカの利上げや中国経済の失速という懸念は、昨年から言われていたことで、今に始まったテーマではありません。にもかかわらず、ここにきてこれほどの急落があったのは、こうした懸念を材料にして「ショック」を仕立て上げようとした人たちがいるということです。

端的に言えば、今回の急落の主犯はヘッジファンドの投機的な売り浴びせだと思います。いま、仕掛けてきているのはCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー、商品投資顧問会社)と呼ばれるヘッジファンドたち。コンピュータを使ったプログラミング売買を駆使して、先物市場で機械的な売買を行う「怪物」です。

海外投資家が見放した

中原たしかにヘッジファンドはここぞとばかりに売り浴びせてきましたね。これだけ値動きが荒いと、信用取引を行っていた個人投資家のなかには大損失を出した人も多いでしょうし、心理的に相当つらい状況に追い込まれているでしょうね。

石黒CTAは年の前半にドイツ国債への投資に失敗していたので、それを取り返そうと躍起になっていますからね。日本株の先物取引がふくれあがっています。8月17日、18日の225先物の出来高は3万枚程度でした。それが21日に12万枚に拡大し、24日には20万枚と7倍近くになっており、それだけ巨大な売りの仕掛けが動いているということです。

つまり、今の株価は実態以上に下げが助長されているともいえるでしょう。私は、今回の下げは投機的なもので、本格的な上昇相場の終わりだとは思っていません。

豊島確かに今回の暴落は急で投機的なものでした。しかし、私は日本株の今年の見通しについてネガティブに見るようになりました。

年の前半にはもっと強気に見ていたのですが、7月にウォール街へ行って失望して帰ってきたのが大きな要因です。アメリカの機関投資家たちが、日本株を見放していることを肌で感じました。

彼らが日本株を見放した理由は大きく3つ。1つは東芝の会計問題で日本の企業ガバナンスに重大な疑義が生じてしまったこと。2つ目は安倍政権の支持率が低下し、アメリカのファンドマネジャーたちが想定していた長期政権という前提が崩れてしまったこと。そして3つ目が、4~6月のGDPがマイナス成長だったことです。

とりわけ最後の点は重く受け止められていて、「やはり日本はデフレを脱却することができなかったか」という悲観論が広がっています。

日経平均が直近で1万8000円を割り込んだことで、アベノミクスの目玉である株高も怪しくなってきており、アメリカの年金ファンドのような長期マネーが日本市場に入ってくることはもうない。これから日本に入ってくるのはヘッジファンドなど短期の投機筋のマネーばかりでしょう。

石黒それでも、今の日本株はあまりに売られ過ぎではないでしょうか。中国の失速で、輸出の数量は減っているが、まだまだ円安トレンドなので輸出総額で見れば、それほど大きなダメージはない。今回は為替も大きく動きましたが、円安は前年比で見ても10%ほど進んでいますからね。

アメリカはドル高の影響で輸出総額のマイナスが続いているが、日本と欧州はプラス基調を継続中です。日本やドイツの業績はそれほど傷まず、日欧の市場に資金が戻ってくるのは意外に早いのではないでしょうか。

'13年5月23日には、バーナンキ・ショックがありました。これは当時のFRB(連邦準備制度理事会)のベン・バーナンキ議長が量的緩和の縮小に関する発言をしたため起きた株価急落で、日本株も1日で1100円以上も下落しました。その後、2000円近く下落した後、元の値に戻ったのが'13年の年末。

今回崩れた株価も年末にかけて緩やかに回復していくでしょう。企業が好業績を維持できれば、12月には2万1000円の新高値を狙うこともできる。

中原本当にそうなるでしょうか?10月下旬から企業の中間決算が行われますが、確かに円安の恩恵で企業業績はそれなりに好調でしょう。しかし、これがそのまま株価に反映されていくかと言えば、大いに疑問です。

企業は通期見通しを一層、保守的に見積もってくるでしょうし、見通しが下方修正されれば当然、株価はネガティブに動く。中国の景気失速は日本やドイツだけでなく、東南アジアなどの新興国にも深刻なダメージを与えていく。そうなれば日本企業の業績にもじわじわとダメージが広がっていきます。

実体経済を見ても、消費に関して唯一の頼みの綱である富裕層や投資家たちが、株安のせいで資産効果が薄れておカネを使わなくなる。GDP成長率でも、'15年度はマイナス成長に陥ってもおかしくありません。

FRBが利上げを先送りすることなどで、株価が戻ってきたとしても、せいぜい半値戻り(下落幅の半分を戻すこと)の1万9500円くらいが限界。しかし年内にアメリカの利上げがあれば日本株は年度末には1万6000円を割り込むくらいまで下落するでしょう。ただし日銀の追加緩和があれば別ですが……。

追加緩和はやらざるをえない?

豊島ジャネット・イエレンFRB議長は典型的な「中央銀行ウーマン」で、今の異常な非伝統的政策から一刻も早く脱したい。メンツにかけても来春までには利上げを決断するでしょう。

日本の株価に関して言えば、私も2万円に瞬間的に近づくことがあったとしても、年末までにまた売り込まれると予想しています。年末には、今の水準よりも1000円ほど安い1万7000円くらいで落ち着くと見ています。その時の為替水準はアメリカの利上げの先送りもあって、1ドル=115円を想定しています。あとは、日銀の黒田東彦総裁がどう出るかですね。

石黒これだけマーケットが崩れた状況では、日銀も指をくわえて見ているわけにもいかない。昨年も原油安のせいで日銀は追加緩和に追い込まれましたが、今回は原油だけでなく商品市況全体が低迷しているので、去年より物価が下がりやすくなっています。外部環境の影響とはいえ、日本のデフレ脱却は夢の彼方に消えてしまったと取られてはまずいので、日銀が動く可能性はあると思います。

黒田総裁と安倍総理の会談がそろそろ行われるのではないでしょうか。6月2日に会談して以来しばらくあいだが空いています。

安倍総理は9月3日の訪中を取りやめましたし、黒田総裁はアメリカ、ワイオミング州のジャクソンホールで行われる経済シンポジウムに出席し、31日に帰国します。その後、9月上旬にもアベクロ会談がもたれる可能性があります。何が話し合われるかわかりませんが、二人が会うだけで市場にはいい効果が期待できます。

豊島追加緩和はやらざるをえないでしょうね。黒田総裁は腹をくくって、これでダメだったら辞任するしかないと考えているはずです。しかし、はっきり言って弾切れで、これから日銀が何を買うかは見当もつかないですね。それでも、追加緩和というだけでアナウンス効果はあるはずです。

政権も支持率回復を図るために経済対策を前面に出してくるでしょう。11月に郵政上場を強行するとしたら、その直前10月末に動きがある可能性が高い。

ただし、アベノミクスもダメで支持率も低迷しているという状況が続けば、アベクロの不協和音が顕在化していくことも考えられます。今年の終わりから来年初めにかけて「日銀はもうやるべきことはやった」というような言葉が黒田総裁の口から洩れてくるかもしれない。

中原私は追加緩和策は限界にきていると思います。緩和で数ヵ月は株価が回復しても、あくまで打ち上げ花火に過ぎず、全体的な株価の下降トレンドを変えることはできないでしょう。この2~3年の経済動向を見る限り、緩和で実質賃金が増えないことは明らかですし、消費が刺激されることもない。ただの一過性の花火、それも最後の花火になるでしょう。

豊島私は長期的な下降トレンドに入ったとはまだ考えていません。来年は復調トレンドなのではないでしょうか。アメリカ経済が回復し、中国が最悪の状況を脱するという楽観論に立てば、日経平均が2万2000円を超えることだってありえます。しかし、目先は不透明です。今年のうちはどんなショックがあるかわからないとだけ言っておきましょう。

【第3部】「消費税は5%に戻すしかない」はこちら

いしぐろ・ひでゆき/岡三証券・日本株式戦略グループ長・シニアストラテジスト。'04年入社以来、日本株情報・戦略に携わる
としま・いつお/三菱銀行・スイス銀行を経て独立、豊島逸夫事務所代表。国際金融、マクロ経済動向、金相場などに詳しい
なかはら・けいすけ/アセットベストパートナーズ所属。エコノミスト、ファイナンシャルプランナーとして多数の著書を執筆

「週刊現代」2015年9月12日号より


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