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中国経済の頭脳が明かす景気減速の本音 「想定内でコントロールは可能」 [中国]

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    中国経済の頭脳が明かす「景気減速」の本音

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    川村雄介が中国社会科学学院前院長・李揚を独占直撃!中国経済の頭脳が明かす「本当の中国」

    日本では「中国の終焉」というようなことがしばしば語られるが、実際はどうなのだろう。フォーブス ジャパン好評のコラム「川村雄介の飛耳長目」の大和総研副理事長、川村雄介氏が北京に飛び、中国の経済政策の頭脳的役割を担う中国社会科学院前副院長、李揚氏に聞いた。

    川村副理事長(以下、川村):中国の経済成長率は現在、7%を切っており、中国経済の先行きはかなり厳しいという見方が日本では大勢を占めています。その点についてどうお考えでしょうか。

    李揚前副院長(以下、李):結論を言うと、心配は無用です。中国は30年にわたり10%台、2桁の成長を遂げてきましたが、そういう成長はバランスや調和、持続性に欠けます。現在の減速はこれまでの成長モデルの修正であり、中国政府としては織り込み済みなのです。

    まず、今年のGDP成長率は7%といわれています。私たち研究者も政府も、第13次五カ年計画(2016~20年)の間は約6.5%の成長率をキープできると考えています。これは、20年までにGDPを10年の倍以上まで成長させるということ。目標の達成は容易ではありませんが、実現可能だと考えています。

    次の第14次五カ年計画(21~25年)中、経済成長はさらに減速し、6.5%を割り込む予想ですが、それも政府の想定内で、コントロールは可能です。

    中国経済は現在も発展路線にあると言えますが、過去30年、ハイスピードな成長の中で、政府も社会もGDPを重視しすぎました。高度経済成長には大気汚染をはじめ環境問題など負の側面がありますし、経済は量的には成長しても質が低く効率は悪いままでした。

    ここ2年、GDP成長率は鈍化していますが、排ガスやCO2などの排出に関するデータはいずれも改善しています。単位GDP当たりの水の使用量、エネルギーの消費量も大きく減少。また、かつてはメイド・イン・チャイナといえば「安かろう、悪かろう」でしたが、この2年のクオリティの向上には目覚ましいものがあります。

    もう一点。中国では数十年にわたる経済成長で国家財政が豊かになったものの、国民はその恩恵を十分に享受していませんでした。ところが12年以降、都市部世帯の収入の増加率はGDP成長率を超え、農村部世帯の収入の増加率は都市部世帯のそれをさらに超えています。

    成長のプロセスでは、地方の産業や企業の停滞、失業率の上昇など、「改革の陣痛」ともいえるさまざまな問題が生じます。解決には何が重要なのでしょう。

    第一に、マクロ経済の安定を維持する、つまり経済成長の減速をより緩やかにすること。第二に、ミクロ経済を活性化し、例えばイノベーションを企業や市場の新たな原動力とすること。第三は、社会、民間の力によるセキュリティネットワークを構築すること。この三つが揃えば、中国経済の転換はうまくいくでしょう。

    とくにセキュリティネットワークについては、以前は地方政府ごとだった就労者の年金管理が全国規模での実施に向かっており、公的医療保険についても改革が進められています。

    じつは中国の年金基金は、現状が続けば29年以降マイナスとなってしまう恐れがあります。解決には国有企業や中央企業の利益から国家がより多く徴収する、国有資産を売却して年金に活用する、労働者の退職年齢を引き上げていくという方法があります。

    川村:国有資産を年金に活用するというと、具体的にどういうことでしょう。

    李:簡単に言うと、年金資金が足りなくなったら国有資産を売却して補うということです。

    中国の財政には四つの予算があります。通常予算、ファンド予算、国有資産、年金予算で、現在一体化を進めています。完了すれば、国有資産の売却によって年金の不足を補うことが可能になります。
    中国政府は朱鎔基元首相の時代に年金の資金不足解消のため、大部分を政府が拠出した社会保障基金をつくりました。政府の拠出金は現在1兆元以上に達しており、近年は年金資金補填のため、国有企業からの税収の投入額が増え続けています。13年11月の中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)では、国有企業からの税収で足りない場合、国有資産売却によって補足するとの方針が打ち出されました。

    つまり中国政府は、国民の生活の問題を最優先課題に位置付けているのです。

    純資産は100兆元超

    川村:リーマン・ショックの際には、中国政府による4兆元の財政出動が世界経済を救ったといわれています。しかし、その反動で大きな不良債権や過剰な設備投資が生じ、中国の成長率は10%から6%台に減退しました。不良債権や過剰設備の償却、就業率アップが急務ですが、中国政府はどのような考えで政策を実施しているのでしょうか。

    李:急所を突いた良いご質問です。確かに今後、不良債権の処理問題や雇用問題が生じると思います。15年は不良債権比率が上昇しており、16年も続きそうです。総合的な対策が必要になるでしょう。

    不良債権処理には、良質の債権が必要です。また、企業の倒産や就労問題にも絶えず直面することになります。ただし、中国の総資産は14年末の段階で負債額をはるかに超えています。国家の純資産は100兆元以上ですが、そのうち流動性の高い純資産は28兆元程度。不良資産や失業問題解決の際の物質的基礎となります。ですから海外にも、中国の純資産は1.5回の金融危機に対応するに足るという分析があるのです。

    川村:いまから15~16年前、中国の国有銀行は四大銀行を中心に不良債権で大変苦しめられました。当時は不良債権の受け皿会社を作って処理しましたが、経済は10%を超える高度成長を遂げていました。成長率が当時の半分ほどになった現在でも、政府のバランスシート内で吸収できるという理解でしょうか。

    李:じつは13年に、習近平国家主席は、こんな発言をしています。

    「過剰生産力は負の資産ばかりではない。多くは鉄筋コンクリートなどインフラ整備の分野に関連する生産力だ。それを都市インフラの建設など国土整備に活用できれば過剰ではなくなり、中国は今後10~20年は成長を維持することができる。つまり現在やるべきは、都市インフラ建設において投資と融資を行うことなのだ」

    中国は現在、まさにこれに関連した法整備を行っています。それによって今後数十年間は経済成長を続けていけるでしょう。新しい分野の工業やサービス産業、インフラ建設が関係してくるので、投融資メカニズムを作ってそれをサポートすることが重要になってきますね。

    TPPは脅威ではない

    川村:習近平政権になって世界的に注目されている政策に「一帯一路」戦略とAIIB(アジアインフラ投資銀行)があります。日本やアメリカは、一帯一路は対外的なマーケットの拡大による国内の過剰生産力の解決策なのではと言っています。

    李:確かに私たちは過剰生産力問題を解決しようとしていますが、一帯一路の沿線諸国にもニーズがあるのです。リーマン・ショックによる金融危機以来、世界中でインフラ投資が不足しています。日本や欧米などの先進国ですら老朽化が進むインフラの更新投資が必要になっています。AIIBは、インフラ整備、インフラ開発など、そうしたニーズに応えるものだともいえます。

    中国は「一帯一路」政策に続いて「シルクロード基金」を立ち上げ、AIIBの設立も呼び掛けましたが、これらは世界的に歓迎されています。それは現在、世界的にインフラと資金が不足しているためで、一帯一路、シルクロード基金、AIIBがまさにこれらの問題の解決に貢献できる政策だからだと考えます。
    川村:興味深いことに、14年から15年の春先、AIIBについて日本国内の議論は日本が参加するか否かについて二つにわかれました。私は、日本は積極的にAIIBの創設メンバーになるべきだという意見で、日本政府の中枢でも同意見の人は少なくありませんでした。

    李:中日両国の政治家はすでに答えを出しているのではないでしょうか。「島」の問題などで中日間は政治的に冷え込んだ時期がありました。しかし、外相レベルの交流も、李克強首相と安倍晋三首相との会談も再開しました。アジアの平和と発展のため、中国と日本には大国としての責務があるということを両国の政治家は意識し始めていると思います。

    川村:同感です。私は、日本の中国経済、中国の戦略に対しての見方には偏りがあると感じています。日本側は「島」の問題の発生以降、中国がアクションを起こすことイコール日本が攻撃対象になっていることと受け止めるようになっています。このギャップは取り払う必要があるし、その意味でシンクタンクや民間の透明性のある交流が重要だと思っています。

    李:おっしゃる通りです。最近は民間、とくに中国人観光客も行動でそれを示そうとしていますね。「爆買い」によって。

    シンクタンク間の交流も行われ、中日両国の提携について模索しています。じつは1週間前、共産党中央委員会と国務院がシンクタンクについて新しい政策を打ち出しました。国家クラスのハイレベルのシンクタンクを作ろうというのです。

    川村:素晴らしいですね。ところで、TPPについてはどうお考えですか。

    李:私は中国にとってTPPはチャンスではないかと考えています。

    TPPの新たなルールの中には、現在の中国の経済発展の方向と合致したものがあります。労働者の労働条件、国有企業の問題や役割などです。現段階では受け入れがたい規定もありますが、今後は対応できるようになるでしょう。

    3年前に発足した上海自由貿易区はTPPへの対応策の一つです。上海自由貿易区には二つの大前提があります。一つは国民の所得レベルのアップ。もう一つは、自由化リストを除外項目だけをリストアップするネガティブリストに変更すること。つまり、中国はすでにTPPの原則を部分的に実施しているのです。

    また、アメリカとの間では5年前から中米投資貿易協定の協議をすでに24回実施しています。貿易と投資分野に関する内容で、TPPとほとんど変わりません。

    次世代の高倉健、李香蘭を

    川村:14年、女優の李香蘭(山口淑子)さん、俳優の高倉健さんが相次いで亡くなりました。どちらも中国では大変人気で、日中間で誤解が生じても、彼らが解決してくれた部分がありましたが、いま、お二人に相当する日本の芸能人、文化人はいないように思います。

    また、最近は中国から多くの旅行者が訪日し、日本文化に接している半面、日本から中国への旅行者は減っています。増やすには象徴的な文化人、芸能人等が必要ではないでしょうか。

    李:高倉健さん、山口淑子さんに匹敵するような文化人や芸能人は、いまの日本にはいませんね。一方、中国と韓国の間では、中国での韓流ブームがあり、両国のタレントが行き来し、スター同士が結婚することもあるほどの関係にあります。なぜ「韓熱日冷」なのか、考えてみる価値はあると思います。

    中国では数年前、北海道を舞台にした中国映画『狙った恋の落とし方。』が大ヒットしました。雄大な大自然を背景に、人情味豊かな人物が描かれた作品で、この映画のヒットをきっかけに多くの中国人が北海道を旅するようになりました。こうした文化面の交流は良好な日中関係の構築を支えるものとなるでしょう。

    李揚 / リー・ヤン◎中国の経済学者。中国社会科学院前副院長、国家金融発展実験室理事長。1989年より中国社会科学院で研究活動を重ねる。2003~09年に中国社会科学院金融研究所所長、09~15年に中国社会科学院副院長を歴任。

    課題は、過剰資本処理を国内で完結できるか
    大和総研主席研究員 齋藤尚登

    中国の経済・金融問題は世界の経済・金融問題に発展し得るとの視点がますます重要になるだろう。

    中国では、2008年11月の4兆元の景気対策で過剰設備問題や過剰融資問題が先鋭化。川村氏からは過剰な資本ストックは20兆元~40兆元に積み上がっているのではとの指摘がなされた。李氏は同意した上で、14年末時点の国家のバランスシートは100兆元の純資産を有し、流動性の高いものだけでも28兆元に達し、いつでも活用可能であると回答した。

    重要なのは、こうした過剰資本ストック(潜在的な不良債権)の処理が国内で完結できるか否かであろう。流動性の高い純資産28兆元には、外貨準備や海外株式市場に上場した中国企業の資産が含まれているという。外貨準備の多くは米国国債などで運用されており、それを売却して
    活用するとなれば、世界の金融・資本市場の動揺を招くリスクがある。過剰資本ストックの処理問題にしても、極力、中国の「国内」問題にとどめることが肝要である。幸いなことに中国の国債発行残高のGDP比は14年末で15%と低水準にとどまっている。

    もうひとつ、インタビューでは紙幅の関係で割愛されたが、李氏が今後の中国経済の発展理念としてイノベーションの重要性を強調したことも印象深い。一帯一路(海と陸のシルクロード)構想は、労働コストの上昇や元高によって競争力を失った産業・企業の海外移転を推進する側面を持つ。自国に残った産業をアップグレードしなければ、空洞化は避けられない。イノベーションの重要性は指摘されて久しいが、その実行の真剣度を大きく増そうとしているのかもしれない。

    中国は日本の「経験」を研究し尽くしている
    長崎大学経済学部教授・南開大学客員教授 薛軍

    私は中国経済の先行きに対して楽観的だ。日本の論者の多くはかなり慎重な見方で、ハードランディングに伴って社会的混乱を来すと見立てる向きすらある。

    確かに中国経済が、長期にわたる猛スピードの成長が鈍化したため数々の試練に晒されていることは間違いない。高度成長を牽引してきた「三つの馬車」ともいえる投資・消費・輸出がいずれも息切れしている。不動産バブル崩壊、シャドーバンキングや不良債権、企業の高負債率などの問題も深刻だ。中国財政部トップの楼継偉氏すら「現在の中国は『中所得国の罠』に陥る可能性が50%ある」と指摘しているため、日本からは中国経済が霜枯れ模様に見えてしまうのだろう。

    しかし、中国政府は日本のバブル崩壊や金融自由化に伴う「痛みの経験」を研究し尽くしている。日本が経験したような苦しみをいかに回避するか、多角的かつ深度をもって検討してきた。中国政府はすでに債務デフォルトの最悪場面での危機対策を考えている。中央政府のマクロコントロール能力は、経済危機においてこそ真価を発揮するはずだ。その企画力と実行力を過小評価すべきではない。

    李先生は豪壮の文人気質を胸裏に秘めている。川村副理事長との篤い友情も李先生の琴線が奏でる名曲である。印象深いのは、2年半前の李先生と川村副理事長との会談だ。李先生はアジア投資銀行を中国と日本で一緒にやればと提案したのだ。中国政府が世界に向けてAIIB構想を明らかにする前のことだ。

    李先生も高倉健氏の大ファン。学生時代には5~6回も映画館に足を運んで『君よ憤怒の河を渉れ』を見にいったそうである。


    8月12日、天津市の浜海新区で起こった爆発事故では人的、物的に大きな被害が出た (CHINAFOTOPRESS / GETTY IMAGES)


    9月25日、ホワイトハウスでの晩餐会に招かれた習近平国家主席夫妻 (GILLES SABRIE / GETTY IMAGES)


    春節休暇で日本を訪れた中国人観光客。家電量販店などで「爆買い」する人が急増した (CHRIS McGRATH / GETTY IMAGES)


    11月1日、3年半ぶりの日中韓サミットがソウルで開かれ、今後の定期的開催を確認した (CHIP SOMODEVILLA / GETTY IMAGES)

    タグ:中国経済
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