Photo by Drew Angerer/Getty Images

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 2016年12月12日の日経平均株価が年初来最高値を更新し19000円を突破。NYダウも過去最高値を更新中で2万ドルも射程圏に入ってきている。トランプ相場がいつまで続くのか、マーケット関係者の関心事はもはやこれだけといっても過言ではないだろう。この大相場にうまく便乗し、終わりを迎える前に逃げたいとみんなが思っているはずだ。

 今後の世界の動きを予測するにあたって最も重要なポイントは、債券を巡るトランプ大統領の発言である、と指摘するのは『トランプ・シフト これからの世界経済に備える14のこと』(朝日新聞出版)の著者・塚口直史氏だ。

 塚口氏はロシア・モスクワを拠点とする英国系投資顧問会社のグローバル・マクロ戦略のヘッジファンドマネージャーであり、特に地政学リスクをベースとした運用戦略が専門だ。そんな運用のプロが重視するポイントは、世界の債券市場だという。

 国際社会は日米英欧の債券市場を基盤として成り立っているといっても過言ではない。

 世界の年間GDP(国内総生産)総計である73.5兆ドル(約8300兆円、ブルームバーグ:2015年12月時点)をはるかに凌駕する493兆ドル(約5京5700兆円、OTCデリバティブ市場合計:2015年12月末時点)を超える資金供給を可能とするインフラが国際金融市場だ。その中でも取引量の3割以上を占めるのが米国国債市場を中心とする米ドル金利市場だという。

 数字で書かれるとイメージがつかないかもしれないが、世界GDP(世界の実体経済)の6.7倍ものマネーが国際金融市場に流通しているということになる。言い換えると、この私たちの世界が6個以上存在しているということだ。つまり、極めて巨大な怪物が、実体経済に覆いかぶさっていると言えよう。

 世界で一番の流動性を誇り、世界中のさまざまなモノやサービスと交換することができる米ドルを保有することのメリットは大きく、かつ、債権者に金利と元本が期日にはきちんと支払われるという規範を信じている人々が多いからこそ、世界中の国、年金基金、企業や家計が米ドルを購入し、その買い付けた米ドルでもって米国政府の発行する債務証書である国債にこぞって投資している。

 その結果、米国は国だけで既に約20兆ドル(約2247兆円、ブルームバーグ:2016年11月18日時点)もの莫大(ばくだい)な借金をしているにもかかわらず、国家や企業や家計は比較的低金利で国債や社債や住宅ローンを借り入れることができ、世界中に多くの経済需要を提供できているのである。

 この米ドル金利市場の根幹である債務返済の規範が、返すあてもないのにお金を借りてしまおうというトランプ大統領の登場で、大きく損なわれている可能性に直面していると塚口氏は警告している。

 みんなで協力しあってお金を貸し借りしあうことができる土壌には、「借りたものは返す」という国境を超えた共通認識があり、そうした信頼の上で成り立っているのが、国債市場をはじめとする国際金融システムだ。「借金を踏み倒す」ことを是とするような人間がアメリカ経済のトップにたったのではないかという疑念が市場を覆いつつあり、現に金利は世界中で上がり始めている。

 先に述べたように、実体経済の6.7倍ものマネーが流通している国際金融市場で、世界的かつ急激に金利が上昇することは、マーケットに大きなマグマ溜まりを生み、近い将来市場の地殻変動を引き起こすに違いない。

 このような状況下で、私たちはいったいどうすればよいのか?

 一つは、手元流動性を高めておくこと。つまり現預金を多く持っておく必要がある。マーケットに大きな揺らぎが生じたとき、資産が安く買えるチャンスも相応にやってくるためだ。そういったチャンスを手にするためにも、いつでも動かせる資金を持っておきたい。

 また塚口氏は、金融市場の激変を逆にリターンの源泉とする「ブラックスワン・ファンド」への投資も選択肢の一つとして挙げている。

 金融市場では想定外のショックを多く見かけることがあり、そうした事象を「ブラックスワン」と呼ぶ。かつて西欧ではすべての白鳥は白いと信じられていたが、欧州の探検家がオーストラリアで黒い白鳥(黒鳥)を発見したことから、その考えが間違っていたことが証明されたという逸話に由来している。2008年のリーマンショックや2015年のチャイナショックはまさにその典型だ。

「ブラックスワン・ファンド」には、統計学上で発生確率は低いものの、発生すると巨額の損失を招く可能性のある「テールリスク」を管理しようという試みで、例えば全保有資産の10%を投資のプロに任せ、オプション契約をはじめとする市場が混乱に陥った際に、値上がりする投機的商品に投資するファンドなどが該当する。

 あまりお目にかかれない金融商品だが、この激動の機会に探してみてもよいだろう。