<br>          名ばかりの「技術移転」 働けど実習生(8)<br>

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 実質、労働力。それでも国は、外国人技能実習制度の目的を「技術移転による国際貢献」とする姿勢を貫く。移転先の現実は-。

 ベトナムの首都ハノイ。3年間の実習を終え、昨年10月に帰国した男性(24)は「覚えた技術は使い物にならない」と明かした。

 関西の建設会社でひたすら鉄筋を組み立てた。日本の分業制に比べ、ベトナムは一つの業者で大半の工程を担うという。機械も旧式が多く操作が違う。結局、来日前の実習生に日本の習慣を教える職に就いた。

 ベトナムの送り出し機関によると、帰国後に技能を生かせている人は3割程度にとどまる。一方で一部には、日本と取引のある会社に入って高収入を得る人もいる。最も役立っている技能は「日本語」だという。

 昨年11月に外国人技能実習法が成立し、期間が最長5年に延長されることになった。優秀な人材を引き留められる分、技術移転は遅れる。さらに農業では-。

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 うっすらと雪化粧をした雲仙岳の裾野に大根畑が広がる。旬の冬だけあって収穫作業は多忙を極め、実習生が手伝う姿も見られた。ここ、長崎県など3県1村が「期限を終えた実習生を“再雇用”したい」とする要望を国に提出した。

 実習生は原則転職できない。あくまで目的は技術移転であり、継続的な修練が欠かせないからとの理由。農業も同様に3年間、一つの農家から移動できない。

 「大根の閑期に別の野菜農家を手伝うなど、融通が利けばいいのに」。JA島原雲仙の担当者は漏らす。特に島原半島は斜面に農地が分散し、より手間がかかる。従事者の3割は70歳以上。重労働を担う若手の不足を実習生が補っている。

 要望は昨年12月、国家戦略特区として認められた。“卒業生”を呼び戻せば、技術の移転は進まない。国の建前はどこへ-。

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 2月22日、首相官邸で政府の働き方改革実現会議が開かれた。長時間労働の是正を中心に、8回目のこの日で各論を終えた。人口減社会で働き方を変えつつ経済成長も求めれば、労働力不足は必然。そこで最後に取り上げられたのが外国人労働者問題だった。

 実習制度にも意見が出され、有識者は「雇用確保の手段として拡充するには限界がある」として新たな枠組みを求めた。安倍晋三首相も単純労働者の受け入れに関し「国民的コンセンサスを踏まえつつ検討すべき問題」との見解を示した。

 とはいえ、議論は緒に就いたばかり。当面、実習制度は継続される。転職できない、家族も呼び寄せられない…。「働けど実習生」という労働者の権利が制限された状態は維持される。

 大根畑でベトナム人実習生の女性(20)は言った。「家族のために頑張ります」。寒風に吹かれながらも額には汗がにじんでいた。労働者の顔だった。

 =おわり

=2017/03/01付 西日本新聞朝刊=