中国経済の崩落が止まらない。不動産と株の「2大バブル」崩壊で消費や生産が低迷、輸出も大幅に減り、習近平政権は人民元切り下げという“禁じ手”に追い込まれた。経済成長率「7%」という公式発表について、英調査会社は「ファンタジー(幻想)だ」と一蹴。実際の成長率は2016年に1%にまで落ち込むと衝撃的な予測を行った。

 中国人民銀行(中央銀行)は11日、人民元の対ドル相場の基準値を算定する方法を変更、2%近く元安に設定した。12、13日も“切り下げ”を実施し、3日間の切り下げ率は計約4・5%となった。

 中国は輸出を有利にするため、為替介入によって人民元を安く維持して急成長してきたが、米国などの批判により2005年に元切り上げを実施し、徐々に元高に誘導してきた。

 人民元を国際通貨にしたいという野望を抱く習政権としては、公然と為替レートを操作するような手段は控えたかったはずだ。恥も外聞もなく、元切り下げに走ったのは、そこまで中国経済が危機的状況を迎えていることの裏返しだといえる。

 「世界の工場」と呼ばれたのも今は昔、7月の輸出と輸入を合わせた貿易総額は前年同月比8・2%減となり、5カ月連続で前年割れした。7月の輸出は前年同月比8・3%減と2カ月ぶりにマイナスとなった。輸入も8・1%減と、9カ月連続で前年同月を割り込んだ。

 1~7月の貿易総額累計も7・2%減で、年間で6%増とする政府目標とは大きくかけ離れている。最大の貿易相手である欧州連合(EU)が7・5%減で、日本も11・0%減っている。

 ほかの経済指標も悲惨だ。7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比1・6%上昇と政府目標の3・0%を大きく下回った。工業品卸売物価指数(PPI)については5・4%の下落を記録し、3年5カ月連続で前年割れするなどデフレの崖っぷちだ。

 背景にあるのが2つのバブル崩壊だ。不動産バブルの崩壊で建設投資が伸び悩み、企業の生産活動も不振に見舞われた。さらに上海など株式市場では6月中旬以降の暴落によって、多くの個人投資家が損失を抱え、自動車の販売に影響があったとの指摘もある。

 いいところがない7月の経済指標をみると、その直前の四半期にあたる4~6月の国内総生産(GDP)成長率が、政府目標とちょうど同じ7・0%を維持できたことがまったくもって不可解だ。

 「中国の公式統計はファンタジーだと考えており、真実に近いということもない」と明言するのは、英調査会社ファゾム・コンサルティングのエリック・ブリトン氏。

 ロイター通信によると、同社は昨年から、中国の公式GDPの予想を公表するのを取りやめ、実際の成長率とみなす数値を公表することを決めたというから徹底している。

 「実際の成長率とみなす数値」の参考になるのは、中国ウオッチャーの間ではおなじみの「李克強指数」だ。李首相が遼寧省の党書記だった2007年、当時の米国大使に「GDP統計は参考用にすぎない」と述べたことが、内部告発サイト「ウィキリークス」に暴露された。李首相は信用できるデータとして、電力消費と鉄道貨物輸送量、銀行融資をあげている。

 英調査会社によると、中国の4~6月期の実際の成長率は3・2%で、公式統計の半分以下にとどまるという。さらに2015年の成長率は2・8%、そして16年はわずか1・0%にとどまると予想している。

 『中国経済まっさかさま』(アイバス出版)の著者で週刊東洋経済元編集長の勝又壽良氏は、「中国経済は不動産バブルが崩壊した後、株式バブルによって支えられてきたが、『ダブル・バブル』崩壊によってハードランディング(墜落)は不可避となった。貯蓄を蒸発させるだけでなく、資産価格下落で新たな負債が生まれる『逆資産効果』も懸念される」と語る。

 人民元を切り下げた習政権が、今後も財政支出や追加緩和を打ち出すとの見方もあるが、勝又氏は根本的な解決にはならないと指摘する。

 「危機を脱出するには市場経済への移行やイノベーション(技術革新)政策が必要だが、共産党政権には実行不可能だろう。中国経済に逃げ場はなくなった」