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日本の自治体の経済規模を世界の「国」と比較してみた [日本再生]

日本の自治体の経済規模を世界の「国」と比較してみた

本川 裕?[統計データ分析家]
【第12回】 2016年10月26日
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東京都の県内総生産は93兆円と、全国の18.3%を占め、人口世界第4位のインドネシア一国の経済規模に匹敵する

日本の各都道府県には
世界各国の経済が詰まっている

各国の経済規模はGDP(国内総生産)であらわされる。そして、日本の近世に、石高制の下で、米の収穫量に換算した経済規模指標である石高で各藩が格付けされていたように、現代では、世界各国はGDPで格付けされている。WHO(世界保健機関)FAO(国連食糧農業機関)、世界銀行といった国際機関への拠出金も基本的にはGDP規模に対応している。

石高制の基礎となったのが検地という調査統計だったとしたら、GDPによる国際秩序はGDP統計を基礎としている。統計には統治手段としての側面と観察手段としての両面があるが、GDP統計にも統治手段としての側面があるわけである。

もっとも、近世の石高制でも、隠田(検地逃れの田畑)、縄伸び(田畑を広げて行って実際の面積が大きくなること)などで表高と内高が一致していなかったように、IMFの研究によれば、GDPでも把捉されない「シャドウエコノミー」がOECD諸国でも10~30%存在しているとも言われている。しかし、国連の基準に基づいて作成され、各国の相互比較を可能とするデータとしてはGDP統計を措いて他にはない。

前置きが長くなったが、今回は、各国のGDP統計と日本の各地域のGDPに当たる県内総生産や市町村内総生産のデータとを使って、日本の各地域の経済規模が世界のどんな国の経済規模と匹敵しているかを調べ、グラフにあらわしてみよう。

英「エコノミスト」誌の記事に付されるグラフやマップはアイデアのよさと簡潔で分かりやすい表現で際立っている。米国の各州の経済規模が海外のどの国に匹敵するかをマップ化したのを手始めに中国の各省や日本の地域ブロックの経済規模を同じように世界のどの国に匹敵するかを描いたマップを掲載し、これが同誌のいわば“おはこ”となっている。

ただし、日本については残念なことに東北や九州といった地域ブロック単位での対比であり、日本人にとってはもっとなじみ深い都道府県単位のマップは描かれていない。そこで、私は、おそらく本邦初だったと思うが、自分の著書やサイトでこれを掲載し、日本経済もそう捨てたものではないということの証左とした。

次ページの図1がその最新版のマップである。これまでは経済規模をGDP額の棒グラフであらわすとともに地図上で対応国名を表記するという2図セットの表現だったのを、今回は、これを一つの図に統合するため地図内に円の大きさでGDP規模をあらわすという新たな方式を試みた。

◆図1 都道府県と経済規模が同等な国々(2013年)?

[コピーライト]本川裕 ダイヤモンド社 禁無断転載拡大画像表示

データは各都道府県が算出した値を内閣府が取りまとめている統計によっているが、種々の統計の結果を利用して作成する加工統計なので、現在得られる最新年次が3年前の2013年と、結果が得られるまでに時間がかかりすぎるという欠点がある。

国内最大の経済規模を有しているのは、首都を抱える東京都であり県内総生産は93兆円、都道府県計509兆円の18.3%を占めている。この額は、ほぼ、人口規模が2億5000万人と米国に次ぐ世界第4位のインドネシア一国の経済規模に匹敵している。

第2位は大阪府の37兆円であり、東京都の約4割と大きく下回っているが、国レベルでは南米コロンビアの経済規模に匹敵している。第3位は、愛知県の35兆円であり、これはBRICSの一角を占める南アフリカの経済規模と同等である。

第4位は神奈川県(マレーシアと同等)、第5位は埼玉県(アルジェリアと同等)、第6位は千葉県(ペルーと同等)、第7位は兵庫県(カタールと同等)であり、以上7位までの経済規模の累積は、全国の50.3%となっている。ほぼ3大都市圏に当たるこれら7都府県が日本経済の半分以上を占めているのである。

都道府県の中で最も経済規模が小さいのは鳥取県の1.8兆円であり、東南アジアの産油国ブルネイのGDPとほぼ同等である。

日本にも馴染み深い国が日本の都道府県レベルの経済規模であり、また、日本より人口規模の大きなインドネシア、バングラデシュなどが経済規模別には、それぞれ、東京都、静岡県と同等で日本地図の中にすっぽり収まってしまう姿に日本経済のスケールの大きさがうかがわれる。

栃木県内の多くの市は
アフリカの国々と同等

次には、さらに、都道府県のレベルから市町村のレベルにブレークダウンして日本の経済規模のレイアウトを概観してみよう。

多くの都道府県では、毎年、市町村民所得統計(市町村民経済計算)が作成されており、その中で市町村のGDPというべき市町村内総生産が算出されている。

すべての都道府県を取り上げるというわけにもいかないので、今回は、代表例として栃木県の市町村の経済規模を海外諸国と比較してみた(図2参照)。

栃木県の経済規模は都道府県の中で16位の8.2兆円とエクアドルと同等だったが、栃木県の中で最も経済規模が大きい市町村は県庁所在地の宇都宮市であり、市内総生産額は2兆7000億円である。これはアフリカ南部のザンビアのGDPとほぼ同じである。前図をよくみると分かるとおり、実は、佐賀県の県内総生産も同じ2.7兆円であり、ザンビアと同等だった。栃木県の中でも宇都宮市は県並みの経済規模を有していることが分かる。

県内第2位の経済規模は栃木市の7000億円であり、これは中央アジアのキルギスに匹敵している。3位の小山市は西アフリカのモーリタニア、4位の那須塩原市はやはり西アフリカのシエラレオネ、5位の足利市はアフリカ南部のスワジランドとほぼ同等の経済規模である。

このようにアフリカの国と同等の市が多くなっている。

?◆図2栃木県の市町村と経済規模が同等な国々(2013年)

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また、鹿沼市と南太平洋の島しょ国フィジー、日光市とインド洋に浮かぶモルディブ、那須烏山市とカリブ海のグレナダが同等経済規模となっており、各大洋の小さな島しょ国に匹敵する市町村も多くなっている。

このように都道府県レベルから市町村レベルに目を移すとアフリカ諸国や太平洋やカリブ海などの小さな島しょ国の経済規模と同等な地域が多くなるが、それでも国レベルの経済規模を有している点から日本の地域経済は、やはり、あなどれない実力を有していると見られよう。

表1には現在市町村内総生産が推計されている都道府県を示した。推計は都道府県で行っているので、各県のサイトからデータをダウンロードすることができる。今回は栃木県しか紹介できなかったが、興味のある方は同様のマップを作成して、見栄えのする地域紹介資料などにしてみたらいかがであろうか。

◆表1市町村内総生産が推計されているか(平成25年度段階)

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地域と海外諸国との
GDP比較の注意点

最後に、地域と海外諸国のGDPを比較する場合の2つの注意点について言及しておこう。

GDP統計は各国政府によって作成されたのち、国際機関に送られ、現地通貨ベースをドルベースに換算したデータとして整備され、相互比較が可能となる。そうしたGDP統計のデータベースとしてはIMF(国際通貨基金)のWorld Economic Outlook Databasesが標準的に使用される。

注意点の1つ目は、もとは現地通貨ベースで作成されるGDP統計を、比較のためにドルに換算するレート(比率)についてである。

ドル換算レートには、為替レートと購買力平価(purchasing power parity、PPP)ベースのレートの2種がある。前者は為替市場での現地通貨のドル価格をそのまま換算レートにするものであり、場合によっては、その時々の市場における通貨の過大評価や過小評価によって実際に商品を購入できるレートとかけ離れてしまう恐れがある。そこで、実際の様々な商品が現地通貨でどれだけ購入できるかを調べ、それで判明した購買力平価で換算するのが後者の方式である。

今回のように経済規模や経済力の比較のためにGDP総額を使うときは為替レートが使われる場合が多く、所得水準をあらわす指標として、人口1人当たりのGDPを使う場合は、購買力平価ベースの値を使うことが多い。GDPは国内で一年間にどれだけの付加価値が生産されたかをあらわし、いわば国民の稼ぎがどの程度あるかを示している。その稼ぎでどの程度のものを海外から買えるかという発想では為替レート・ベースが適するということになる。一方、みずからの稼ぎでどの程度の生活水準が実現可能かという観点からは、購買力平価ベースが妥当だということになるのである。

そのため、国際機関への拠出金の分担を決めるには為替レートによる換算が適しているのは明らかなのだが、為替レートによる換算の問題点は年により変動が大きいという点である。

今回使用した為替レートは1ドル=97.6円だが、これは前年度(2012年)の1ドル=79.8円から2割以上も円安となった。今回、インドネシアと同等の東京都の経済規模は、前年2012年には、メキシコと同等、さらにその少し前には韓国と同規模と計算されていたのが、かなり相対的な地位を低下させているのは、経済成長率の差もあるがこのところ円高から円安へとシフトしているためでもある。同じように、例えば、今回、ペルーと同等の千葉県の場合は2012年にはフィリピン、その前はイスラエルと同等だった。

円安の進行により2014年、2015年の評価はさらに低くなると予想される。

もう1つの注意点は、GDP作成基準の変更による影響である。

GDP統計は、正確にはSNA(国民経済計算)と呼ばれ、国の経済活動全体とその諸側面をあらわすため様々な1次統計の結果を組み合わせて作成される加工統計である。国連が定める統一基準で作成されることが重要なのは、全国検地として石高制の基礎を作った太閤検地が米の収穫量を同じ大きさの京升で計ることに統一したことが重要だったのと同じである。

この国連のSNA基準は、68SNA(1968年の基準、以下同様)、93SNA、2008SNAと改訂されてきている。改訂の移行期には先行して改訂した国とまだ改訂していない国とが混在し正確にはGDP統計を各国比較できないことになる。2008SNAでは兵器や研究開発がコスト扱いから固定資本扱いとなりその分GDPも増加する。

?◆表2SMA基準改訂によるGDPレベルに及ぼす影響(2010年時点)

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表2のように2008SNAへの改訂の影響(対GDP比ポイント)は、例えば、米国の場合、2010年に、研究開発の固定資本扱いで2.5%、兵器システムの固定資本扱いで0.5%、総合で3.7%とされる。改定の影響はルクセンブルクのように0.2%にとどまる国もあれば韓国のように7.8%と大幅だった国もある。日本では他のOECD諸国から大きく遅れて2016年7~9月期の四半期GDPの2次速報から新たに算入される見通しであり、名目GDPは現在の約500兆円から3%以上、金額にして15兆円以上増える見込みである。

そうであれば基準が切り替わっていない日本の地域内総生産も、他国と比べて3%ほど過小評価になっているということになる。アフリカ諸国など途上国ではまだ切り替えが進んでいない国が多いし、為替レートほどには影響が大きくないのであまり気にする必要はないかもしれないが、やはり、頭に入れておくべき統計上の背景状況といえよう。


タグ:日本経済
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