米国・ワシントンD.C.の国会議事堂。米国議会で日米同盟の片務性を批判する声が高まってきた(資料写真)


米国のトランプ政権は日米同盟の堅持と尖閣諸島の共同防衛を確約している。その一方でこのほど、民主党の有力議員が米国議会で“日本は憲法を改正しない限り米国の公正な同盟パートナーにはなれない”“現状では米国は尖閣を防衛すべきではない”という主張を表明した。

日本側の憲法が原因とされる日米同盟の片務性は、これまで米国側から陰に陽に批判されてきた。だが、これほど真正面からの提起も珍しい。日本側としても真剣に受け止めざるをえない主張だろう。

中国の無法な膨張が議題に

2月28日、トランプ大統領による議会両院合同会議での初演説の数時間前に、米国議会下院外交委員会の「アジア太平洋小委員会」が公聴会を開いた。アジア太平洋小委員会は、日本や中国などアジア・太平洋地域の諸課題を審議している。

新政権下では第1回となるこの公聴会は「中国の海洋突出を抑える」という名称がつけられていた。南シナ海と東シナ海における中国の無法な膨張を米国はどう抑えるべきかが審議の主題だった。

委員会は、テッド・ヨホ議員(共和党)を議長に、共和、民主両党の議員たちがメンバーとして並び、シンクタンクなどから証人として招いた3人の専門家の見解を聞きながら議論を進めていくという方式である。

私は、南シナ海や東シナ海での中国の横暴で威嚇的な行動をトランプ政権下の新議会がどう捉えているのかが分かるのではないかと期待して、出かけていった。

2人のベテラン議員が日本の現憲法を問題視

公聴会ではまず議長のヨホ議員が、中国の南シナ海での人工島造成や軍事基地建設を膨張主義だとして非難し、中国による東シナ海での日本の尖閣諸島領域への侵入も米国の同盟国である日本への不当な軍事圧力だと糾弾した。

そのうえで同議員は、オバマ政権下の米国のこれまでの対応が中国をまったく抑えられなかったと指摘し、日本などの同盟国と連帯して対中抑止態勢を構築することを提唱した。その前提には、トランプ政権が日米で尖閣を共同防衛する意思を表明していることがもちろん含まれていた。

ところがこの委員長発言の直後、民主党を代表して発言したブラッド・シャーマン議員が驚くほど強硬な語調で日本を批判したのである。

「トランプ政権が日本の施政下にある尖閣諸島の防衛を約束したことには反対する」

中国の海洋進出を非難する前にトランプ新政権の対日安保政策に反対を唱える発言に、私は驚かされた。シャーマン議員はさらにショッキングな発言を続けた。

「日本は憲法上の制約を口実に、米国の安全保障のためにほとんど何もしていない。それなのに米国が日本の無人島の防衛を膨大な費用と人命とをかけて引き受けるのは、理屈に合わない。日本側はこの不均衡を自国の憲法のせいにするが、『では、憲法を変えよう』とは誰も言わない」

「2001年の9.11同時多発テロ事件で米国人3000人が殺され、北大西洋条約機構(NATO)の同盟諸国は集団的自衛権を発動し、米国のアフガニスタンでの対テロ戦争に参戦した。だが、日本は憲法を口実に、米国を助ける軍事行動を何もとらなかった。その時、『日本はもう半世紀以上も米国に守ってもらったのだから、この際、憲法を改正して米国を助けよう』と主張する政治家が1人でもいただろうか」

シャーマン議員は公聴会の満場に向けてそんな疑問を発すると同時に、日本やアジアに詳しい専門家の証人たちにも同じ質問をぶつけた。

シャーマン議員はカリフォルニア州選出、当選11回のベテランである。民主党内でもかなりのリベラル派として知られる。そんなベテラン議員が、日米同盟が正常に機能するためには日本の憲法改正が必要だと主張しているのである。

シャーマン議員の主張の言葉を継いだのが共和党の古参のデーナ・ローラーバッカー議員だ。ローラバッカー議員もカリフォルニア州選出で当選13回である。中国に対して厳しい構えをとることで知られ、国務長官候補として名前が挙がったこともあった。同議員は次のように発言した。

「確かに日本の憲法が日米同盟の公正な機能を阻んでいる。だが、安倍晋三首相は憲法改正も含めて日本の防衛を強化し、同盟を均等にしようと努めている。それに、アジアで中国に軍事的に対抗する際、本当に頼りになるのはまず日本なのだ」

ローラバッカー議員もやはり日本の現行憲法が日米同盟の双務性を阻み、本来の機能を抑えていると認めている。

両議員に共通するのは、日本の現憲法が日米同盟を歪めているので、改正した方がよい、という認識である。特にシャーマン議員は、米国の尖閣防衛誓約を日本の憲法改正と交換条件にすべきと述べているのにも等しい。

日本の防衛費抑制も批判

証人たちが発言する段階になっても、シャーマン議員は再び「日本の防衛努力の不足」を指摘した。そして、防衛費の対GDP比も持ち出してきた。

「米国などが国際的な紛争を防いで平和を保とうと努力する一方で、日本は血も汗も流さない。憲法のせいにするわけだ。日本の防衛費はGDPの1%以下だ。米国は3.5%、NATO加盟諸国は最低2%にするという合意がある」

そのうえでシャーマン議員は「日本が防衛費をGDPの1%以内に抑えているのは、やはり憲法上の制約のためなのか」と証人たちに質問をぶつけていた。

トランプ氏は選挙期間中に日米同盟の片務性を批判していたが、先日の日米首脳会談における友好的な対応から、日本側には安心感が生まれたようだ。だが、議会ではこのように民主党と共和党のベテラン議員が揃って日本非難を打ち出している。米国の超党派の議員から、日本の現憲法や防衛費に対する批判が表面に出てきたという現実は深刻に受けとめねばならないだろう。

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筆者:古森 義久